eスポーツイベント「RAGE」の選出タイトルの1つ「Shadowvese」(iOS / Android / PC)が後継作「Shadowverse: Worlds Beyond」に移行することから,「RAGE Shadowverse」として開催されてきた大会も2024年6月16日に一区切りを迎えた。
振り返れば2016年の「RAGE vol.3」に選ばれてから8年。「RAGE Shadowverse」は開催回数にして30回という,なんとも息の長い大会になった印象だ。本稿では,そんな大会の振り返りや「RAGE」立ち上げの経緯,そしてこれからの「RAGE」が未来に向けて目指していくものをRAGE総合プロデューサー・
大友真吾氏に語ってもらった。
「RAGE」発足から今日までの足跡を振り返る
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。早速ですが,「RAGE」の立ち上げからお聞かせください。どのような経緯で始まったのでしょうか。
大友真吾氏
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大友真吾氏(以下,大友氏):
「RAGE」の初回開催は2015年に遡ります。当時,CyberZが運営しているOPENREC.tvというゲームに特化したライブ配信プラットフォームを担当しており,ユーザーを集める方法の1つとしてeスポーツに注目していました。
しかし,2015年時点で行われているeスポーツ大会は,すでに大手プラットフォームで配信されていることがほとんどでした。それなら,OPENREC.tvが独占配信できるeスポーツブランドを作ろうということで,オリジナルコンテンツとして「RAGE」を立ち上げた,というのが成り立ちになります。
4Gamer:
立ち上げ時に,苦労したエピソードはありますか。
大友氏:
「RAGE」立ち上げのメンバーは私ともうひとりの社員の計2名だったんですが,eスポーツの大会を運営したことも企画したこともなく,そもそもイベントの運営自体すらしたことがない状態からのスタートでした。経験の無い領域への挑戦だったので,体験することすべてが苦労の連続でしたね。
製作費をかけすぎてしまったこともありましたし,eスポーツが浸透する以前からシーンを牽引してきたコミュニティの方たちに受け入れていただくまでは大変でした。
4Gamer:
各コミュニティに受け入れられるまで,さまざまな試行錯誤があったと思います。大友さんの中で強烈に印象に残っている「RAGE」はありますか。
大友氏:
印象深いのは,やはり初回の「RAGE vol.1」です。いろいろ失敗もしましたが,思い入れも深く,今でも真っ先に頭に思い浮かぶのは「RAGE vol.1」の光景です。
4Gamer:
「RAGE vol.1」のタイトルは「Vainglory」でしたね。こちらが最初の競技タイトルに選定された理由は何だったのでしょうか。
大友氏:
すでに座組が完成しているところに割り込んでいくよりは,「Vainglory」のような新興タイトルと二人三脚で,成長の一翼を担うつもりでご一緒させていただく方がいいのではないかと判断しました。
「Vainglory」の開発会社であるSuper Evil Megacorpともお会いする機会があり,日本での開催要望や具体案をお伝えしたところ,非常にスピーディに許諾をいただけたことも後押しする形になりましたね。
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4Gamer:
大友さんは「RAGE」の場でよく,eスポーツシーンにおける「スター」を作ることの重要性を語っておられますが,「RAGE vol.1」の時からこういった思いはあったのでしょうか。
大友氏:
はい。「RAGE」では,格闘技イベントを想起させるようなプレイヤーをクローズアップするアプローチで演出しましたし,「RAGE」で注目されたプレイヤーが将来的にスターになれるように,というビジョンをずっと持っていました。
「RAGE」に出場してくれるプレイヤーのパーソナリティを視聴者に知ってもらうために個別インタビューを録ったり,格闘技でいうところの“煽りVTR”を録ってみたり,わざわざスタジオを借りて記者会見発表を行ったり……と,選手を「スター」に飛躍させる土壌を作るために,とにかくいろいろやりましたね。
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4Gamer:
オフラインイベントだった「RAGE」にとって,2020年からのコロナ禍はさまざまな方針の変更を余儀なくされた時期だったと思います。この期間中に感じたことや新たに得たものはありましたか。
大友氏:
コンサートや舞台といったほかの興行と比較すればダメージは少なかったと思いますが,それでも閉塞感が漂っていた苦しい時期でした。
東京オリンピックが開催される予定だった2020年には「RAGE World」と銘打った大規模な世界大会を開催する予定だったのですが,コロナ禍が訪れオリンピックが延期したことに伴い,変更を余儀なくされました。
ただ悪いことばかりでもありませんでした。例えば,「RAGE Shadowverse」の運営をオンラインに切り替えたことで,総エントリー数が圧倒的に増えました。地理的なハードルが取り払われ,これまで参加しにくかった地域の方が多く参加してくださり,大きな成長を遂げるきっかけになったと思います。
「RAGE World」もオンラインイベント「RAGE ASIA」として開催したことにより,アジア地域のプロ選手やチームに参加していただきました。ストリーマーや芸能人の方にもエキシビションとして参加していただき,お祭り要素の強い大会となりました。これもコロナ禍によるオンラインへの移行がなければ実現できなかった事例だと思います。
4Gamer:
興行の在り方に幅が生まれたという側面のみを見れば,決してコロナ禍はネガティブなことだけではなかったと。
大友氏:
そうですね。もちろん大変だったことに変わりはありませんが,今思えばプラスになったことのほうが大きかったかもしれません。
4Gamer:
そうしたさまざまなことを経験して「RAGE」は9年目を迎えたわけですが,立ち上げ当初と今では目指す地点やビジョンに少なからず変化があると思います。「RAGE」を運営していくなかで,新たに加わった目標などはありますか。
大友氏:
大きく変わった点は,「グローバルへの挑戦」という新たな目標ができたことでしょうか。例えば,現在では日本で開催する大会であればインバウンドを狙い,海外の視聴者層を獲得することを目標にしています。また,実現には至っていませんが,国外での「RAGE」開催も見据えてチャレンジしていきたいと考えています。
4Gamer:
なるほど。
大友氏:
あと,eスポーツを一過性のブームで終わらせずに,文化として根付かせるというテーマにも向き合い続けなければならないと思っています。
コロナ禍が落ち着いてから,私たちが運営するイベント以外でも有料観覧席が売れるようになってきており,eスポーツシーンの盛り上がりを感じますが,これらはタイトルやインフルエンサーの人気といった部分で成り立っている側面が大きいんです。
次のステップは,メジャースポーツのように特定選手のファンでなくても試合を観に行ったり,楽しいユーザー体験を得られたりするというステージだと思います。そこに達して初めて「文化として根付いた」と言えますし,「RAGE」がその一助となって業界を牽引していく,というのが今現在持っているビジョンのひとつになります。
「Shadowverse」と共に歩んだ8年間
4Gamer:
続いて「Shadowverse」の話に移ります。まず,「RAGE」の開催タイトルとして「Shadowverse」を選択した経緯を聞かせてください。
大友氏:
「Shadowverse」は,先ほども申し上げた「新興タイトルと二人三脚で,成長の一翼を担うつもりでご一緒する」という「RAGE」の方針と合致したタイトルだったことが決め手になりました。
グループ会社のタイトルでもあり,「Shadowverse」プロデューサーの木村さん(木村唯人氏)も対戦ゲームである以上はeスポーツシーンを意識されていたようで,お話が進みました。
4Gamer:
「Shadowverse」を競技タイトルにした「RAGE」の大会は30回も開催されましたが,そのなかでもっとも印象に残っているエピソードはありますか。
大友氏:
印象に残っているエピソードとしては,選手にとってフェアな対戦環境とイベントならではの「見せ方」のバランスを試行錯誤していたことですね。
カードゲームの特性上,「エンターテイメント」と「競技性」を両立させなければいけないという命題をクリアするのは非常に難しく,かなり頭を悩ませたこともありました。
4Gamer:
どういった試行錯誤があったのでしょうか。
大友氏:
基本的に「RAGE Shadowverse」では,プレイヤーには外と隔離されたボックスに入ってもらい,可能な限り集中してプレイできるフェアな環境で対戦いただいていますが,以前は,マジックミラーを使って観客側からだけ選手が見える形で行っていました。
ただ,観客側からはポジティブなフィードバックが得られたものの,選手側からは目を凝らせば,照明の都合で客席が透けて見えてしまい,集中できないという競技性の部分に不備が出てしまっていました。
「エンターテイメント」と「競技性」は逆相関になっている面があると感じましたし,そこのバランスを手探りで調整していった結果,現在の形になりました。
4Gamer:
大友さんが印象に残っている大会はありますか。
大友氏:
思い出に残っている大会は2017年の「Shadowverse World Grand Prix」かもしれません。
とにかくこの大会は初の世界大会だったこともあり,すごく大変だったんですよね。海外から選手を招き,会場には4か国語の配信席を用意しましたし,彼らのホスピタリティ面のサポートもどうすればいいのかはかなり悩みました。予期せぬこともたくさん起きましたし,どこを振り返っても大変だったことが思い出される大会ですね(笑)。
4Gamer:
RAGEが直接関わったのは2017年まででしたが,「Shadowverse World Grand Prix」といえば,2018年の大会で賞金が100万USドルと発表されたときは「Shadowverse」コミュニティのみならず,業界全体に激震が走ったと記憶しています。
大友氏:
「Shadowverse」は私たちとしても,もっとも多く大会を開催したタイトルであり,思い入れの強いタイトルです。
プロシーンが発足し,3か月に1回のカードパック追加ごとにその時々のチャンピオンを決めるために「RAGE」を開催し続けましたし,音楽×eスポーツをテーマにした試み,有料席のVIPエリアを設置する試み,オンラインTCGを同時に同一会場でプレイした最多人数のギネス記録に挑戦したこともありました。本当にいろいろなことに挑戦させてもらった8年間だったなと。
4Gamer:
今年6月には「Shadowverse: Worlds Beyond」の配信時期が2025年春に延期されることがアナウンスされました。「Shadowverse」最後の「RAGE」から少し間が空くことになりますが,「RAGE」の「Shadowverse」における今後取り組みや展望についてお聞かせください。
大友氏:
7月から「Shadowverse 最強チーム決定戦 powered by RAGE」を開催するなど,今後も取り組みを行っていければと思っています。「Shadowverse: Worlds Beyond」は詳細はまだ未定ですので,続報をお待ちください。
4Gamer:
最後に「RAGE」の10年について総括をお願いします。
大友氏:
チャレンジを続けてきた10年だったと思います。常々,現状に甘んじず挑戦を続けてきたからこそ,現在の日本におけるeスポーツシーンでは,メーカーの公式大会を除けば,ナンバーワンのブランドに成長したと手前味噌ながら自負しています。そして,現状に甘んじることなく歩みを止めずにこれからも進んでいきたいと思います。今後とも「RAGE」を何卒よろしくお願いいたします。
4Gamer:
本日はありがとうございました。